■詩・歌・換・言。<微行相思>×<水蜜桃> その壱

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「雪くる前」 室生犀星


ひとすぢに逢ひたさの迫りて

酢のごとく烈しきもの

胸ふかく走りすぐるときなり。

雪くると呼ばはるこゑす

はやも白くはなりし屋根の上。






あはれ君に降る雪は〜白、深々〜 TEXT by 瀞ひそか様<微行相思> 







 ――ひとすぢに 逢ひたさの迫りて

「――は!」
鞍を置くのももどかしく、しなやかな青年の体躯がひらりとそこに跨がると、人馬はそのまま、一陣の風となって駆けだした。
「え?ちょっと旦那!」
「ゆるせ、すぐに戻る――」
過ぎさりざま、千切れ遠ざかりながらの幸村の短い言葉を、その従者である猿飛佐助の耳は難なく聞き取ったが、声の主はもはや、遥かな道の彼方だった。
やれやれとそれを見送りつつ、何とはなしに見上げた空は、灰色に重く、手が届くかと思うほどに低かった。冬将軍の城――その中には千も万もの兵卒達が、討って出んとてひしめいていることだろう。
「…今年も、いよいよかねえ」

 ――酢のごとく烈しきもの 胸ふかく走りすぐるときなり。

居城の裏手の丘の上へは、もう疾うに馬を責めて登ることなど叶わなくなっていた。政宗はゆるゆると並足で来たそれを麓に残すと、後は独り、ただひたすらに白い景色の中をゆく。固く凍みた雪の面に、かんじきが浅く沈む規則的な音だけを連れて。

そして、ついに舞い落ちてきたひとひらを、
紅蓮のふたつ名を持つ者は、なびかせた髪にちりばめ、蒼の化身を名乗る者は、たなごころにそのひとつのみをうけた。

 ――降ってきたか
 ――降ってきたな

ちらちらと視界を舞い始めた白いものたちを、一直線に貫くように土手の道を走らせてなお、振り切れぬ想いとひかない熱が、同じく白い息となる。
 ――これは、あの方の治める地にも、降ったものであろうか
たどりついた頂、城と城下とを一望にして佇みながら、徐々に濃いものになる雪の匂いの冷たさの中に、今まで感じたことのない、ほの甘い何かを嗅ぎ当てた気がして、苦く笑う。
 ――あいつの居るあたりには、まだ降っちゃいねえだろう
春になれば、桜が咲けば――またいずれかの戦場で、貌を合わせ、死力を尽くした火花を散らす。
どちらかの命運が、交わす刃に露と散り果てるそのときまで、それは繰り返される――それでも。

「ひと目なりと――」
「――逢いてぇもんだ」

 ――雪くると呼ばはるこゑす
 ――はやも白くはなりし屋根の上。

【了】

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派生した妄想を描き起こさせて頂きました。あくまでも解釈のひとつとして、ゆるぅくお読み流しください…。






ひとさじ真伊第一回は、室生犀星とひそか様のドゥーブル・フロマージュ。(と勝手に管理人が決めました/笑)
水蜜桃の糖蜜解釈を経た結果、真っ白でとろけそうな、スイーツ仕立ての初雪のお話になってしまいました。
直情径行のふたりですが、筆頭は蒼白い炎をちらちらと燃やしながら、真田は吹き上げる紅蓮の炎を全身に纏いながら、
互いの距離を縮めるイメージ。当然ながらあっという間にたどり着いた真田の炎が竜の身を焦がします(笑)
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モドル。