■詩・歌・換・言。<微行相思>×<水蜜桃> Xmas期間限定小品

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春を愛するひとは
〜愛と寛容と、そして〜

「Yes、Christmas――だ。アンタが好きそうな祭みたいだぜ?」
贈り物をしあうだけじゃなく、甘い菓子やらご馳走で祝うのがTheoryだってことだからな――と言葉を継いで、伊達政宗はその隻眼を細めた。
奥州の冬は駆け足でやって来る。信濃を発ったときには燃えるような秋の彩りがまだ残っていたというのに、ここ米沢の城下には常盤木の他に既に色らしい色はなかった。
この冬の間にはおそらくもう、こうして甲斐から奥州への使者に立つ事はないに違いない。
あまりにも春の遅いこの地へ、次に訪れることが叶うのはいつのことになるものか――
そのことに思い至って、真田幸村はよりいっそう両の眼に力を入れると、上田の錦秋のすべてよりもなお鮮やかなひとを――その挙措をひたと見すえた。
「南蛮のならいとは申せ解せませぬ…年の瀬は何かと物入りな時候。そのような大盤振る舞いをしては、歳を越せぬものもおるのでは」
「…そういやアンタも一城預かりの殿様だっけな」
炯と鋭いまなざしがふと和らいで、伊達も彼の庇護のもとにある領民達に、真田と同じ思いを重ねたのだと知れた。
好敵手として相対しているときには、紛れも無く自分がその心とまなざしを独り占めにしているつもりでも、それはその場を限りの――交わす刃の火花のごとく、刹那のまぼろしのようなものでしかないのだと突きつけられる思いがした。
雪深い北の地に、さらには天下に――あまねく春の時代をもたらさんと、惜しみなくその全霊を傾けて、渾身の六爪をふるい続ける蒼き竜。
慕い寄るものたちから奪いたいわけでは決してない。匿したいと言うのとも違う――ただ真田の胸のどこかが、ただれ焦がれて苦かった。
不躾なまでの注視を慣れたもののように受け流すと、奥州の若き長は凪いだままの瞳をより楽しげにとろめかせて、武田の一番槍の姿を見やった。
「その心がけは大したもんだと思うが――Presentくらい受けてくれちゃあどうだ」
続いた言葉から、耳慣れぬ南蛮語はどうやら贈り物の意なのだろうと真田は推測した。
「…?」
思わず首をかしげながら、軽く高い音でうち鳴らされた白い手の動きに見入る間もなく、次の間から近習らしい何者かが黒塗りの盆を捧げて現れる。
そこには両手に載るほどの――一匹の雪兎。しかしよくよく見れば真白なそれは雪で出来たものではないようだった。ついぞ嗅いだことのない甘い香りが真田の鼻をかすめる。
「Cakeとやらを…作ってみた。アンタの口に合うかどう判らねぇが、甘さだけは折り紙つきだ」
「――…政宗殿」
今までの話は、このための布石であったのかと――虚を衝かれて目をまるくしたのち、真田は浮き立つ胸の内を抑えて、殊更ゆっくりと叩頭した。必要以上に力をこめて床についている双の拳が、ともすれば震えてしまいそうだった。
「おい、何の真似だ?」
「ありがたき幸せにござる――
不審を隠そうともしない、伊達独特の艶のある低い声――それが、どうしようもないほどに、真田の耳朶と心を震わせる。
――ただ、欲深いことに、それがしがほしいものは別にあり申す」
「OK…言ってみな」
口にしてみたところで詮ないこと――そんな自戒は確かにあった。だがそうして押しとどめようとするそばから、想いが言葉となってこぼれ落ちた。

「――ひととき、今このひとときだけはどうか――御心のすべてを、それがしにだけ向けていては下さるまいか」


頭を垂れたままどうやら動けなくなってしまったらしい、力の入った真田の後ろ首から背中のあたりを見やって、伊達は小さく肩をすくめてためいきをついた。どうやらそれが聞こえたらしく、真田の拳がみるみる白くなる。
互いがそれぞれに持っている責のなかでもとくに大きいもの――民のことを挙げたのは真田が先で、それでいながら時をおかず、こうして正反対なことを願い出ては身を固くしている。
――まったく、予想通りでも予想外でもアンタはアンタらしいってんだからな
喉奧でひっそり笑うと、再び伊達は手をふたつ打ち鳴らし、今度は次の間の者に下がるように命じながら、真田に近づいていった。
そうして、宥めるように歌うように――

「Hey、ひとまずはこんなところか?――MerryChristmas」

――囁きよりもかすかな祝福をその耳許に落としてやった。

【了】
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季節のスウィーツ!ということで、勿体無くも頂戴した天使のシフォンのようなサナダテクリスマスSSをお披露目です。
添え物のイラストが非常にもうなにか事足りていないというか台無しというか貴様削除するというか(撃沈)
真田の耳許に舞い降りた祝福の一片が非常にもうあれで、メリークリスマスとしか言いようがありません(何
ひそか様と、皆様と、サナダテの幸せな聖夜を願って…MerryChristmas♪


モドル。